エントリーシートの「学生時代に力を入れたこと」の欄を開いて、手が止まっています。部活の主将でもなく、大会で賞をとったわけでもなく、留学もしていません。周りの人が書いていそうな話と比べて、自分には書けることが無いと感じています。
この記事を読み終えると、題材の候補を書き出した紙が一枚手元に残ります。そのうちの一つは、設問に答えられる下書きの骨組みになっています。必要なのは紙とペンだけで、題材を探す作業と書ける形にする作業を分けて進めます。
先に、この記事が採らない立場を書いておきます。経験を大きく見せる書き方や、無かったことを足す書き方は扱いません。いま手元にある経験のなかから、設問に答えられる題材を選ぶ手順だけを説明します。
この記事の結論
「特別な経験がない」と感じるのは、題材を規模で選ぼうとしているからです。
設問が聞いているのは、取り組みの大きさではなく、自分でどう進めたかです。
題材は「自分で決めた場面があるか」「途中で直したことがあるか」の二つの物差しで選べます。
「特別な経験がない」は題材の問題ではありません
書けないと感じるとき、頭の中で誰かと比べていることがあります。主将を務めた人、大きな大会に出た人、海外で過ごした人などです。比べる相手が大きいほど、自分の経験は小さく見えてきます。
ただ、この比べ方は、設問とは別の物差しを使っています。設問の文面を読み直すと、聞かれているのは「力を入れたこと」であって「大きな成果」ではありません。力を入れたかどうかは、規模ではなく、その人がどれだけ自分で考えて動いたかで決まります。
規模の物差しで選ぼうとすると、題材の候補が次々に消えていきます。消えたあとに残るのは、他人と比べて見劣りしない話を探す作業です。この作業は終わりが無いので、欄はいつまでも埋まりません。
この記事で言う「規模」
役職の重さ、大会の順位、関わった人数の多さ、取り組みの珍しさのように、外から見て大きいか小さいかが分かる尺度のことです。この記事では、題材を選ぶときにこの尺度を使わない、という立場をとります。
設問が聞いているのは規模ではなく進め方です
この設問は、入社後に似た場面が来たときの動き方を推し量るためのもの、と考えると書く向きが決まります。仕事では、決められた手順をこなすだけでは済まない場面があります。うまくいかないところを見つけて、自分で手を入れる場面です。
そのため、読み手が知りたいのは、題材の中で本人が何を考え、何を決め、どう直したかです。同じアルバイトでも、言われたことをこなした話と、困りごとに気づいて手を入れた話では、読み手が受け取る情報が違います。規模が同じでも、進め方が書けているかどうかで中身が変わります。
このサイトの面接対策150問でも、学生時代に力を入れたことは独立したテーマとして扱っています。悪い例として挙げているのは、チーム一丸となって乗り越えた、店長に褒められた、という結果の言葉だけで終わる話し方です。自分が何をしたかが入っていないと、聞く側は次の質問を作れません。
同じ経験がまったく違う環境でも再現できるかを聞く問い(Q30)もあります。そこでは、再現できる部分と環境に頼っていた部分を自分で切り分けます。進め方が書けていれば、この切り分けもしやすくなります。
規模の大きな題材は、それだけで読み手の期待も大きくします。期待に見合う進め方が書けていないと、かえって中身の薄さが目立ちます。小さな題材でも、進め方が一つ書けていれば、設問が聞いていることには答えられます。
題材を選ぶときの物差しは二つで足ります
規模の物差しを外したら、代わりに使う物差しが要ります。この記事では、次の二つを使います。どちらも、題材の大きさに関係なく確かめられるものです。
自分で決めた場面があるか
一つ目の物差しは、その経験の中に、自分で決めた場面があるかどうかです。誰かの指示どおりに動いただけの経験は、本人の考えが見えません。小さくても、自分でやり方を選んだり、順番を変えたりした場面があれば、それが題材の中心になります。
自分で決めた場面は、本人にとっては当たり前すぎて、思い出しにくいものです。「なんとなくそうした」と感じている選択も、なぜそうしたかを言葉にすれば判断になります。思い出すときは、迷った場面や、ほかの人と違うやり方をした場面から探してください。
面接対策150問の、自分が判断して動いたことを聞く問い(Q27)では、チームの成果と自分の貢献を切り分けます。悪い例は「みんなで話し合って決めました」で終わる答え方です。一つ目の物差しは、この切り分けを題材を選ぶ段階で先にしておくものです。
途中で直したことがあるか
二つ目の物差しは、途中で何かを直した経験があるかどうかです。最初のやり方がうまくいかず、別のやり方に変えた場面は、それだけで進め方の記録になります。直したことが無い話は、たまたまうまくいっただけに見えてしまいます。
うまくいかなかった部分を書くのは勇気がいります。ただ、直した場面がある話のほうが、面接で深掘りされても話が続きます。最初の案を外していたことは、隠さずに書いたほうが、そのあとの直し方が伝わります。
うまくいかなかった挑戦を聞く問い(Q33)では、失敗した挑戦を隠さずに出します。そのうえで、途中で何を学び、次にどう移したかまで話します。悪い例は「失敗した挑戦は特にありません」と答える形です。
効果が出なかった打ち手の扱いを聞く問い(Q64)では、やめる判断の基準と時期を示します。学んだことを次の打ち手に移した流れまで話し、二つ目の物差しの「途中で直したこと」がその材料になります。
二つの物差しの両方にあてはまる場面があれば、それはもう題材として使えます。規模が小さいことは、ここでは問題になりません。片方だけしかあてはまらない場合も、もう片方を思い出せないか少し粘ってみてください。
小さな題材を書ける形にする
ここからは手を動かします。題材の候補を出し、二つの物差しで絞り、設問に答えられる骨組みにするところまでを進めます。紙を一枚用意してください。
時間を使ったことを、規模を気にせず書き出す
授業、ゼミ、アルバイト、部活動、サークル、独学、家の用事、趣味など、学生時代に時間を使ったことを紙に書き出します。ここでは良し悪しを判断しません。小さすぎると感じるものも、そのまま書いてください。
それぞれに「自分で決めた場面」を一行ずつ添える
書き出した項目の横に、自分でやり方を選んだり順番を変えたりした場面を一行で書きます。思い出せない項目は空けたままで構いません。空いた行は、あとで候補から外します。
「途中で直したこと」に印を付ける
一行書けた項目のうち、最初のやり方を途中で変えた場面がある項目に印を付けます。印が付いた項目が、題材の第一候補です。印が一つも付かない場合は、二つ目の手順に戻って場面を思い出し直します。
候補を一つ選び、四つの欄に分けて書く
第一候補から一つを選び、四つの欄に分けて書きます。欄は「どんな状況だったか」「何に困ったか」「自分で何を決めてどう動いたか」「何を直して、どうなったか」です。三つ目の欄を、いちばん多く書いてください。
結果の欄を、まわりの変化で書き直す
四つ目の欄に「頑張った」「成長した」のような言葉が入っていたら、まわりで何が変わったかに書き換えます。周りの人がやり方を真似した、次の担当者がそのまま引き継いだ、のような変化で足ります。
二つ目の欄の「何に困ったか」は、最も苦労した点を聞く問い(Q28)の答えにもなります。そこでは苦労を抵抗・制約・不確実さのどれかに特定し、どう解いたかまで話すよう整理しています。
四つの欄が埋まれば、設問に答える骨組みはできています。字数に合わせて文章にするときは、三つ目の欄を中心に据え、一つ目と四つ目は短くします。字数ごとに削る場所の決め方は、別の記事で詳しく扱っています。
規模で比べたくなったときの直し方
題材を選んだあとも、書いている途中で規模の物差しが戻ってくることがあります。「この程度の話で大丈夫だろうか」と不安になると、話を大きく見せたくなります。大きく見せようとした文章には、共通の崩れ方があります。
崩れ方の一つは、取り組みの意義を大きな言葉で語り始めることです。「組織全体の改善につながった」「多くの人に影響を与えた」のような言葉は、読み手が中身を確かめられません。確かめられない言葉が増えるほど、本人が何をしたかが見えなくなります。
例(架空の下書き):規模で語ろうとした文章
私が学生時代に力を入れたことは、ゼミの運営です。ゼミ全体の活動をより良いものにするため、主体的に行動しました。メンバー全員が意見を出しやすい環境を作り、組織の雰囲気を大きく変えることができました。この経験を通じて、周囲を巻き込む力とリーダーシップを身につけました。
例(架空の下書き):進め方で語った文章
私が学生時代に力を入れたことは、ゼミの発表準備の進め方を変えたことです。発表の前日に作業が集中し、毎回同じ人が遅くまで残っていました。私は、担当を決める前に作業を細かく書き出して、締め切りを前倒しにする表を作りました。最初は表が細かすぎて誰も見なくなったため、項目を減らして作り直しました。その後は、前日に残る人がいなくなり、次の学年もその表を使っています。
→ 直したほうには、役職もリーダーシップという言葉も出てきません。代わりに、困りごと、自分で決めたこと、一度外した案、まわりの変化が入っています。読み手は「表のどこを減らしたのですか」と聞き返せます。
上の二つは、どちらもこの記事のために作った例です。実在する誰かの話ではありません。言葉の選び方の違いだけを見てください。
大きな言葉を書きたくなったら、その言葉を「誰が、何をしたか」に置き換えられないか試してください。置き換えられない言葉は、削っても中身は減りません。置き換えた言葉のほうが、読み手には大きく伝わります。
面接で深掘りされても持つかを確かめる
書類で書いた題材は、面接で掘り下げられることがあります。掘られたときに話が続くかどうかは、書く前の段階で確かめられます。下の項目を一つずつ見て、答えられないものがあれば、題材を選び直すか、思い出す作業に戻ってください。
深掘りに耐えるかどうか0 / 6 完了
面接では、一つ目の題材のあとに、もう一つ別の経験を聞かれることもあります。面接対策150問では、その場合は一つ目と違う側面が見える題材を選ぶよう整理しています。最初の紙に残った第二候補を、そのときのために取っておいてください。
よくある質問
アルバイトの話は、ありふれていて不利になりませんか?
題材がありふれていることは、それだけで不利にはなりません。読み手が見ているのは、題材の珍しさではなく進め方です。同じアルバイトでも、自分で決めた場面と途中で直した場面が書けていれば、ほかの人の話とは中身が違ってきます。
結果が出なかった経験でも書けますか?
書けます。結果が思うように出なかった経験でも、何に困り、何を決め、どう直したかが書けていれば、設問には答えられます。結果の欄には、数字の成果の代わりに、まわりの人の動きの変化や、自分が次に何を変えたかを書いてください。
いくつかの経験を組み合わせて書いてもいいですか?
一つの題材に絞るほうが書きやすくなります。いくつもの経験を並べると、それぞれの進め方を書く字数が足りなくなります。並べたい経験がほかにあれば、面接でもう一つの経験を聞かれたときのために取っておくと使い道があります。
自己PRと同じ題材を使ってもいいですか?
同じ題材でも構いません。自己PRは同じ動き方が別の場面でもできることを見せる欄で、こちらはひとつの取り組みをどう進めたかを見せる欄です。自己PRでは動き方を、こちらでは直した過程を中心に置くと重なりません。
この記事の主張は、このサイトの面接対策150問にある問いの組み立てと悪い例で言い換えています。数字や体験談は使っていません。
根拠:面接対策150問 Q26・Q27・Q28・Q29・Q30(ガクチカ)/Q33(挑戦)/Q64(課題解決・PDCA)題材が決まったら、自己PRや面接の冒頭の自己紹介にも同じ材料が使えます。書類と面接で話す内容がそろっていると、深掘りの質問にも答えやすくなります。続けて読める記事を並べておきます。
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選んだ題材が使えるかどうかを、書く前に一緒に確かめる
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